米国版「地域新電力」
日本で新電力が窮地に立たされる中、米国カリフォルニア州の地域新電力は、太陽光発電などのカーボンフリー電力を活用した新しいビジネスモデルを開拓している。
先月、カリフォルニア州北部でコミュニティ・チョイス・アグリゲーション(CCA)を運営するシリコンバレー・クリーン・エネルギー(SVCE)は、グーグルと包括的なカーボンフリー電力の「24時間365日」供給契約を結んだと発表した。契約期間は10年である。
ちなみに、CCAは日本でいう「地域新電力」、つまり自治体が設立に関与した小売電気事業者に似ている。CCAは、市や郡などの地方自治体が設立し、自ら発電所を開発、または発電事業者から電力を調達し、 既存の大手電力会社が所有する送配電網を利用して需要家に電力を供給する。カリフォルニア州では、電力小売りが全面自由化されておらず、3つの大手電力会社が電力の送配電と供給を地域独占しているが、2002年に成立した法律で、地方自治体がCCAを設立することにより、地域の需要家が電力調達先を選べるようになった。特にCCAは、既存の大手電力会社との差別化として、再生可能エネルギー由来の電力比率がより高いプランを提供し、その再エネも「地産地消」型で調達している。
SVCEは2016年に設立され、その名の通りシリコンバレーが位置するサンタクララ郡をサービス管轄区域にしており、現在27万人を超える家庭および商業用電力需要家に、カーボンフリーな再エネ電力を供給する非営利のコミュニティ所有の機関である。
シリコンバレーは、アップル、グーグル、メタ・プラットフォームズ(フェイスブックから社名変更)を含むIT企業の一大拠点として有名だ。
現在SVCEの電気料金プランは2つあり、1つ目は、「グリーンスタート」を呼ばれるカーボンフリーの再エネ50%の電力、2つ目は、「グリーンプライム」と呼ばれるカーボンフリーな再エネ100%の電力で構成されている。「グリーンスタート」はほぼ半分が太陽光、風力などの再エネで、残りの半分はカーボンフリーの大規模水力発電からなっている。つまり、どちらの料金プランにも化石燃料は含まれていない。SVCEは、コミュニティ全体の脱炭素化を強く促進している。
蓄電池併設メガソーラーとPPA
SVCEとグーグルは共に、脱炭素化、クリーン電力転換に向けて、高いミッションを掲げている。
シリコンバレーに本社を置くグーグルは、再エネ調達量で、長年企業のリーダー的な存在であり、2007年にはすでにカーボーンニュートラルを実現し、2017年には再エネ100%も達成した。同社が調達する再エネは6GWを超える。
グーグルは現在、2030年までにすべての時間と場所においてカーボンフリー電力で事業を運営することを目標に掲げている。
このグーグルの「2030年までカーボンフリー100%」は通常の年間ベースではなく、時間ベースである。通常、企業、電力会社、政府などが再エネ目標を掲げる時、年間の総需要量に匹敵する再エネを発電、または調達するというモデルである。電力需要があっても、夜間、曇り、雨などの時には太陽光発電では需要を賄えない。自然変動電源である風力や太陽光発電がその時間帯の需要を満たせない場合は、主に化石燃料による火力発電が、そのギャップを埋める。このため年間の需要量に匹敵する再エネ供給量を調達したとしても、現実的には非カーボンフリー電力に依存していることになる。
SVCE は10年間の契約に基づき、シリコンバレーのマウンテンビューとサニーベールにある、グーグルの2つのオフィスキャンパスに電力を供給する。
時間単位でカーボンフリー電力の供給を実現するためには、太陽光発電と他の再エネ資源、そしてエネルギー貯蔵との組み合わせが必須となる。SVCE は、グーグルが所有・調達している風力、太陽光発電、そして地熱発電と、SVCEが調達する電力ポートフォリオを組み合わせ、グーグルの負荷に時間単位で需給を一致させつつ供給する。具体的には、グーグルのキャンパスにおける需要に対し、年間の全時間の少なくとも92%をカーボンフリー電力で需給バランスを維持するという契約だ。
SVCE は、今まで再エネに18億ドルを投資し、合計700MW以上の再エネと200MW以上のエネルギー貯蔵設備を含む15件のクリーン・エネルギー・プロジェクトの電力購入契約(PPA)を締結した。15件のうち8件は、太陽光発電とエネルギー貯蔵設備の組み合わせとなっている(図1)。

図1●SVCEがカリフォルニア州でPPA契約を結んだプロジェクト(出所:SVCE)
現在SVCEのPPA案件で最大規模となるのは、カリフォルニア州中部から南部に建設された「スレイト太陽光発電+エネルギー貯蔵」プロジェクトからである。この案件は390MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)と容量561MWhのエネルギー貯蔵設備からなっており、SVCEは、メガソーラーから93MW分の出力、エネルギー貯蔵設備から186MWh分の電力量を調達している。残りの電力は他のカリフォルニア州のCCAが調達している(図2)。

図2●カリフォルニア州で最大規模の太陽光発電とエネルギー貯蔵設備のプロジェクト(出所:Recurrent Energy)
オール電化で需要を柔軟化
需給バランスの維持では、供給側の制御だけではなく、需要を柔軟化するデマンドコントロール(需要管理)が採用されている。
グーグルがカリフォルニア州ベイビューに開設した新しいキャンパスは、最新のスマートなオール電化による建物であり、エネルギー需要を柔軟に調整できるようになっている。屋根に太陽光パネルを竜の鱗のように敷き詰めたオンサイト発電だけでなく、北米で最大規模の地中熱利用システムを導入している(図3)。

図3●カリフォルニア州ベイビューに開設された新しいグーグルのキャンパス(出所:Google)
空調の際、熱交換媒体を大気(空気)でなく、建物下の地中にすることで、冬は地面から熱を吸収し、夏は熱を地面に放出し、年間を通じて冷暖房の効率を高めることができる。さらに、駐車場の10%には電気自動車(EV)向け充電器が配備されている。
空調および電力貯蔵、EVの充電インフラなどを含む、グーグルの革新的なオール電化システムは、最もクリーンで低コストの電力を使用するように柔軟に需要を調整できる。こうした需給一体制御によって、「24時間・年中無休」でのカーボンフリー電力のパフォーマンスがさらに向上するとしている。
出典:新・公民連携最前線https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/082100220/